2008年10月19日日曜日

『水のなかのナイフ』と『袋小路』

 ポランスキーが『ピアニスト』で完全復活したという話を聞いたときは、ずいぶん懐疑的な気分になったものです。やっぱりカンヌ映画祭に第二次世界大戦のユダヤ人迫害をテーマにした映画をもってきてほしくないなあ、というのが正直なところでした。だってどうせみんなほめることになってるんだからさ。実際見てみても、それほどいいってものでもありませんでした。確かにジョニー・デップが主演した映画あたりでは「腐ってもポランスキー」と云うのさえ慎まれたようなところはありましたが。『過去のない男』ではアキ・カウリスマキについて「やればできるんじゃない!」と思ったが、そのような感動はありませんでしたね。「ポランスキーなんだからもうちょっとがんばれ!」という気がしました。(「のび太のくせに生意気だぞ!」の反対ですかね。)
 ポランスキーのデビュー作は『水のなかのナイフ』ですが、これもまた水の印象が強烈な映画です。



Polanski - Nóż w wodzie (Knife in the water) 01

 ポランスキーでいちばん好きなのはこの映画か『袋小路』です。どちらを選ぶかはむずかしいところです。やっぱり『袋小路』かなあ、という気持ちがかなり強いのだが、どこかで「やはり『水のなかのナイフ』も捨てがたい」という声が聞こえます。
 これは『袋小路』のラストシーンです。ラストシーンだと断っているのだから、この映画を見ていないひとは「ラストシーンを見せやがって」と文句を云わないでくださいね。これ、ちょっと長いんだけど、最後の一分が圧倒的に美しい。



Cul-de-Sac/Roman Polanski,1966/take me away...

 水の上のシーンは『水のなかのナイフ』の方が圧倒的に長いのですが、奇妙なことに『袋小路』の方がずっと水際感が強いのです。この映画の満潮の場面は水マニア必見でしょう。このラストシーンでも水の上を走っていますね。
 『水のなかのナイフ』も『袋小路』もなかなかわかりにくい映画です。「これはこういう映画です」と云えないのが『水のなかのナイフ』のいちばんの魅力でしょうか。情事は女の妄想なんじゃないかと私は思います。
 『袋小路』について、「最後にどうしてこの男がアグネスと云うのかはわからないがおもしろい」と云うひとがいるのだけれども、「それじゃ何もわかっていないじゃないの」と思うのですが。この映画については諷刺とかブラックユーモアのことがよく取り沙汰されますけれども、私には滑稽さと入り混じった悲痛さがひしひしと来る感じがたまりません。あるものの悲痛は他者にとって滑稽であるというときに、私はその滑稽をしっかりと意識しながら悲痛に近づいてみたいということを思います。
 ポランスキーの処女性に関する同時期の映画『反撥』(この二作には劣るがいい映画)ではカトリーヌ・ドヌーヴが主演していますけれども、『袋小路』に出ているのは姉のフランソワーズ・ドルレアックの方です。フランソワーズ・ドルレアックが早死にしたからわからなくなってしまったけれども、もともとは姉の方がスターでした。姉が人気があったから妹が出てきたということらしいです。
 ドナルド・プレザンスは007の『二度死ぬ』(確か)に出ていますが、『オースティン・パワーズ』のドクター・イ―ヴィルはこのひとがモデルです。ドクター・イ―ヴィルはフランス語版では Docteur Denfer といいます。Denfer は d'enfer 「地獄の」から来ています。「地獄野博士」って日本語でもいけます。
 ポランスキーのアメリカ時代では、ジャック・ニコルソンは別に好きじゃないが『チャイナタウン』がいちばんいいでしょう。フェイ・ダナウェイとジョン・ヒューストンがいいです。ジョン・ヒューストンは俳優としてはここでの役柄がいちばんいいと思うんだが、役名が「ノア・クロス」というのがさすがにポランスキー、よくわかっていらっしゃる。ジョン・ヒューストンが名監督というのもわたしゃよくわからんのだが。ジャック・ニコルソン主演では私は『クロシング・ガード』という映画が好きなのだが、これが嫌いなひとと真っ二つに意見が分かれているときにフランス人の女の子の友だちが「あれはジャック・ニコルソンが嫌いなひとが好きな映画だから」と云っていたので、「ああ、そういうものなのか」と思いました。
 『ローズマリーの赤ちゃん』はいろいろな意味で気持ち悪いが、ミア・ファーロウとジョン・カサヴェテスの夫婦という変なキャストがいい。「ひとの映画に出たカサヴェテス」のなかではかなり好きな部類。『特攻大作戦』でのカサヴェテスも好き。嘘を云っているひともいるけど、ポランスキーの『吸血鬼』はつまらないので見なくていいです。

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