2008年10月24日金曜日

「津軽弁の日」に行ってきました

 10月23日は方言詩人高木恭造先生の命日にあたり、毎年「津軽弁の日」が催されています。一般公募した詩、俳句、短歌、川柳、体験談の入選作が野津こうへいや伊奈かっぺいらの地元タレントにより披露され、表彰されます。賞としては、高木恭造賞と牧良介賞があります。
 昨日の「津軽弁の日」は第21回にあたりましたが、郷土愛などとまったく無縁の私は初めて見に行きました(見に行ったからって郷土愛が突然わいたりはしませんよ)。第一部は落語家の立川談笑が「金明竹」の大阪弁の口上を津軽弁に変えたものを披露しました。東京生まれで津軽弁はまったくわからないそうですが、お父さんは五所川原出身だそうです。骨董屋の「専門用語」ばかりの大阪弁の早口のことづてがまったくちんぷんかんぷんである「金明竹」を知らないだろうお客さんは、「よそもの」が津軽弁をねたにして話すところが何を云っているのか全然わからないので、野次を飛ばしていました。ちょっとお気の毒ではありますが、たぶん談笑さんとしてもそのくらいは織り込みずみだったと思います。フジテレビの朝の番組には出演しているけれども、青森にはフジテレビネット局がないので無力であるということを自虐的に語りつつ、16年前からやっているこの題目をようやく「里帰り」させることができたと感慨深げに話していました。談笑さんをこの催しに呼んだ伊奈かっぺいさん自身が「談笑さんは落語のなかで東北弁を使うということは読んだことがあったが、どこにもそれが津軽弁だとは書いていなかった」ので、今年立川一門会を見るまで知らなかったとのことですから、案外知らないひとが多いのでしょう。
 第二部が公募作品の披露となったのですが、ここでの地元タレントのアドリブの猥雑な感覚は、ずいぶんフランス人の gauloiseries と通じるのではないかと思いました。この単語は何と訳したものかわかりません。フランスのマスコミで日本人の syndrome de Paris というばかばかしいものがちょっと話題になったときに、「日本人はあこがれを抱いてフランスにやってくるが、フランスの現実があまりにそのあこがれとちがっていて、特にフランス人の gauloiseries のせいで精神に変調をきたす」とからかいまじりで紹介されていました。ゴール(ガリア)の地に特有の気楽で下品で猥雑(むしろ猥褻か)な感じということでしょうか。お上品な日本人がお上品なフランスにあこがれて海を渡ると、そんなばかばかしい病気になってしまうのでしょうが、私はそもそもこういった猥雑さ、悪趣味な冗談には慣れているので、フランス人気質には何のショックも受けませんでした。俺の国かと思ったよ。フランス人にはしばしば「おまえは gaulois だ」と云われたのだが、これは日本で云うと、日本人が外国人に「お前には大和魂がある」と云うようなものか(本当かよ)。
 昨日は会場で52ペイジのパンフレットが無料配布されていましたが、ここに「津軽弁の会」をはじめるきっかけとなった地方紙東奥日報明鏡欄への投稿とそれにつづく論争が紹介されています。論争の口火を切った投稿は「青森に転勤してきて」と題されています。掲載日は1987年4月20日ということです。
 東京から転勤して来て十日目、小学校四年生の我が娘から、青森では「いい」というのを「ええ」というの?と、質問されました。夫がむりに買わされたと持ち帰った六十余市町村の宣伝雑誌の表紙に「ええ話ええ味っこ」とあります。それはちがう、いままで通りの「いい」でよいのです、と子供をたしなめた。
 いつも同じことを言って奇をてらうにわかタレントの伊奈かっぺいや、吉幾三が方言で名を売ったからとて、まねる必要はないでしょう。学校では一体どう教えるのでしょうか。市長会、町村会といえば指導機関でしょう。一言表紙裏あたりにでも方言を使ったことを書けばよかったと思いますが、関係者のご所見をぜひお伺いしたいものです。
 東京の友人から「ええ」ところに転勤したのネ。「えま」にあなたもそうなるワ、とあざけ笑いの手紙が参りました。
 東奥日報には青森県民から次々とこの投書に対する反論が寄せられました。そのなかににわかタレントの伊奈かっぺいさんからのものもありました。
 ちょっとこれは長いので全文引用はしませんが、伊奈氏はこのA子さん(仮名)が娘さんに質問されてそれをたしなめたのが残念であるということを云っています。日本語には共通語と方言があり、その数多い方言のなかで、青森では「いい」のことを「ええ」というという説明を、小学校四年生のお子さんであれば理解できるだろうと云います。「ましてお子さんからの質問であれば、共通語と方言の違いを教え、そして母子で言葉について、語らいのひとときをもつ絶好の機会だったのに」と残念がっています。「東京のあなたの友人へ『ええ所に転勤した』と、心楽しく手紙が書ける日が一日も早く来ますように。少なくとも津軽には、シとヒの区別がつかない江戸っ子を、自分のことは棚に上げて平然と小ばかにするようなひとはいませんからご心配なく」と伊奈氏は締めくくっています。
 この論争の翌年1988年10月23日に「第一回津軽弁の日」が開催されたとのことです。
 しかしこの最初の投稿は、「夫がむりに青森市町村の宣伝雑誌を買わされた」あたりに「いやだなあ」という気持ちがにじみ出ていておもしろいですね。(「ネ」や「ワ」というカタカナの使用法に高木恭造先生からの間接的な影響が…、それはないか。) 子供としてはまったく純粋な好奇心から母親に質問しているのでしょうが、その好奇心をすぐに断ち切ってしまうのが本当に残念なことだと思います。「指導機関」というものいいもいやな感じがします。この投書主にとっては、地方の指導機関は中央の指導機関の意向を徹底するものなのでしょう。もしかしたら、このようにたしなめられた記憶を娘さんは大切に保存し、地方に対する偏見をもって育ったかもしれません。
 ちょっと話は脱線します。差別的な感情は世代から世代へと受け継がれるものです。「道徳をきびしく指導しろ」と主張するひとにかぎって、いったいどういうわけか、「道徳観念は子供のなかから自然に生まれるものではないこと」を知らないふりをします。だからこそ、この自称「きびしい道徳教育」のなかで、「差別はいけない」とか「いじめはいけない」とかいった基本的なことはまったく熱心に教えないようにするのです。こういったことはしっかりと教育をすれば子供でもわかること、むしろ子供の頭にしっかりと叩きこむことができることなのに、それをやろうとしないのです。自分のなかからやさしい気持ちが湧いて出るとでも信じているのでしょうか。事実日本の子供はやさしいのはやさしいのだろうが、まったく社会的な問題に対して不感症に育っているのではないでしょうか。子供が真実を云う国では、「子供を素直に育ててあげなければならない」という口実の下で、単なる経済原則に従って教育を放棄します。いらないことを教えないで、子供が「野蛮」のなかにとどまることの方を好むのです。
 「道徳教育」を声高に叫ぶひとが本当に道徳教育のことを考えているのならいいのですが、事実はそうではなくて、せいぜい「象徴」的なことしか頭のなかにありません。偶然の一致ですが、天皇は象徴です。それでこの「象徴」のなかに「中央集権」を明確に示す日章旗もあるのです。「象徴として日章旗を教え込む教育は地方差別とまったくかかわりのないことだ」とだれに自信をもって主張できるでしょうか。道徳教育を主張するひとほど道徳を語るにふさわしくなく思えるという逆説的な状況に強い違和感を感じているひとは少なくないでしょう。道徳を叫ぶひとの一部は、奇妙なことに多様性を認めないことを特質とする彼らの道徳教育の名において、異質なものに対する差別を継承することに何の抵抗感も抱いていないのです。あんたらの「愛国心」なんぞが道徳と関係があるわけがなかろうが、どあほ。(これは私が愛国心を憎むということではありません。米国では、ランディ・ニューマンやスーフィアン・スティーヴェンズなどが愛国的な歌手だと思いますが、私は好きです。「愛国心」ということばで国民がいなくてもカプセルのなかに保存できるようなからっぽの象徴のことを考えるのか、生きている国民のことを考えるのかのちがいです。国のために命を捨てられるようなそんな国に対する愛国心ならば、そんな風にして個人の命を軽視するものは道徳とは関係がありません。国ではなくて、「隣人」ならば話は別です。グスコーブドリはこの「愛国心」の寓話ではありません。)
 道州制の導入を語るひとがいます。いいでしょう。道州制を導入したら、その道州の数だけの星か何かを図案化した国旗をつくりましょう。そうして中野重治も提案したように、標準語と方言を国語教育の一環として同時に教えるようにすればいいのです。

P.S. 直接的には関係ないですけど、昨日「報道ステーション」で、円高の影響で海外からの観光客の消費が芳しくないという話をしていました。そのなかの映像なのですけれど、「フランス人観光客」として、黒人の男性と白人の女性のカップルが映っていました。というよりも、画面に映っていて話しているのは白人女性ばかりで、黒人男性はほぼまったく映っていませんでした。これを差別だと叫ぶつもりはありません。ただこのような誤解を招きかねない映像は放映すべきではないのです。少なくともカメラをもう少し右にずらして、黒人男性もちゃんと画面に入るようにするべきです。その辺のことがわからないひとが多すぎるからこそ、真の道徳教育を徹底するべきだ、ということを私は主張するのです。

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