2008年10月21日火曜日

おしゃべり!おしゃべり!

(なぜかアクセスが多いのでつけくわえておきますが、この記事はフランス語がわからないひと向けには書いておりません。ですからもしこの記事を読んだとしても、フランス語がわからないひとは性急な結論を出さないようにお願いします。左に書いてありますが、「ひとが言ったことがそのとおりだと主張するのは、狂気と虚栄心のきわみである」。)
 弁護士の小倉秀夫さんという方のブログがどうにも気になるのです。最初にお断りしておきますが、まったくこの方の意見の批判ではありません。
 このひとの日本語のブログはなぜか、ブログの機能にかかわる部分の表示がフランス語になっています。日本人を相手にしたブログで「コメントしてください」とか「このブログを購読してください」だけがフランス語になっていて何の意味があるのかなと思うのだけれども、まあ、おしゃれみたいなものか。どうしてフランス語にすればおしゃれなのかは一向にわからないけれども。
 別にこのブログにかぎったことではないのだけれども、フランス語を使えばおしゃれだと思うのはいいんだが、どうしてそのフランス語が「よくわからない代物」なのかな、というのは本当にわからない。そもそもフランス語がおかしかったら、たとえ百歩譲ってフランス語がおしゃれな言語だとしても、全然おしゃれじゃないじゃないのよ! 街角の喫茶店やお菓子屋さんだったらまだいいけど、この弁護士さんはちゃんと見識があるひとなんでしょ? 見識があって、フランスが好きなひとが、いい加減なフランス語をおしゃれに使うなんて、少なくとも僕には許せないな。フランスが好きと云いつつ、本人のつもりでは心の底からそう思いつつ、その実ばかにしている気がするから。
 まずブログの題名の la causette。これ、おかしいよね。まあ、こういうのがおかしいかおかしくないかというのはなかなかむずかしい問題なんだが、私がおかしいと思うという理由を云います。
 この単語は、新しい用語として、英語の chat (チャット)という単語の言い換え(いわばフランス語の訳語)として推奨されています。推奨されたってみんな英語風の発音で chat と云っていますが、それは別の問題です。ブログはチャットではありません。「チャット」という題名のブログがあったら変じゃないですか。ケベックでは chat にあたる新語をつくって clavardage と云っていて、私はこちらの方がお気に入りです(「キーボード」 clavier と「おしゃべり」 bavardage をくっつけたことば)。ともかくひとりで causette はできません。「おしゃべり」をフランス語にしたかったのだろうけれども、この場合は conversation 「会話」の類義語としての「おしゃべり」ではなくて、ひとりでもできる bavardage 系統の単語を用いるべきなのだと私は思います。
 日本語では「おしゃべり」はひとつの単語です。しかしこの単語には複数の意味があります。「おしゃべりなひと」というのはたくさん話すひと(あるいは口の軽いひと)のことです。しかしこういう「おしゃべりなひと」が「ひととおしゃべりするのを好むひと」であるとはかぎりません。「おしゃべり」は「冗漫な話」と「気楽な会話」の両方を意味しています。たくさん話しすぎの「おしゃべりなひと」(bavard)が自嘲気味に bavardage というブログの題名をつけることはありうるでしょう。しかし「おしゃべり好きなひと」(causeur)がサイトに causette という題名をつけるのは、おしゃべりの場を提供する場合でなければありえません。同系列の単語でもこれが causerie なら全然ブログの題名としてOKなんですよ。「文学についてのおしゃべり」は causerie littéraire です。もしこれが clavardage だと、causette と同じ「チャット」の意味だとしても、「キーを叩いてするおしゃべり」(bavardage)ということで、こんな単語をブログタイトルにつける弁護士さんがいたら、私だって「センスいいなあ」と思っちゃいますよ。(私がひとのセンスを判断するセンスがいいかどうかは別としてね。)
 「何を細かいことを云っているんだ」とお思いのひともいるでしょうが、類義語の使用に関するいい加減さは、外国語を学ぶ日本人の大きな欠点なのです。フランス語をきちんと使おうとするならば、「似ているんだからいいだろう」ではすまないのです。(適切な単語が見つからない能力不足は別の問題です。「これでいいだろう」でいい加減に決着をつけてしまうのが問題なのです。適切な単語が見つからないから、申しわけないがとりあえず暫定的に別の単語ですませるのは、私のよくやることです。) そもそもその「似ている」という感覚が日本語の発想にとらえられている場合が往々にしてあります。(この場合は、causette と bavardage はフランス語でもかけ離れているわけではありません。)
 私はときどきこのブログで causeur.fr の記事を紹介しています。この「おしゃべり好き」の情報サイトでは複数のひとが記事を書いていて、読者の参加を奨励しています。フランスの causette.com は当然 IRC のサイトです。おかしいのが、causette で検索して出てくるヴィデオが赤ちゃんばっかりなんだ(Google Video)。「おちゃべりはじめまちたよお」という感じなのでしょう。「小鳥さんもおしゃべりしてますよ」というときには causette を使えるが、当然 bavardage は使えません。童話には「おしゃべり」(bavard)な鳥が出てきますけど。(Causette は子供の喃語を意味することばではありません。それはむしろ babil です。小鳥のさえずりにもこの単語が用いられます。)
 手元の類義語辞典では、causette は conversation の類義語として、"petite causerie à bâtons rompus" 「とりとめのないちょっとしたおしゃべり」として紹介されています。決して弁舌をふるうのではなくて、ちょこちょこっと話すのです。だからこれは一回のメッセージが決して長くなることのないチャットであり、赤ちゃんのおしゃべりでもあるのでしょう。いわゆる俗語ではないですけれども、くだけた文脈のなかで使われることばです。A bâtons rompus という言い回しについては別のブログで書きましょう。この causette という単語は一種の隠語として「警察の取り調べ」の意味でも使われます。
 しかし最初に云ったように、こういうことは「絶対におかしい」とはなかなか言い切れないものです。小倉さんがこの単語が気に入ってこれをブログの題名に用いているのなら、それはそれでいいと考えることもできます。フランス人に意見を聞いてもわかれるでしょう。しかし benli というもうひとつのブログの方では、カテゴリーのところのフランス語が全滅しています。これは意見のわかれようがありません。D'autre problème de droite, L'organisation nouvalles, Sur la propriètè intellectualle... 私、実は最初のは Autres problèmes de la droite のことで「右派のその他の問題」なのかと思ったのだが、見てみると、別にそこでは右派批判をしていないので、そうでもなさそうです。第一「右派」ならどうして「その他の問題」なのかがわかりません。だからこのひとの専門を考えると、この droite 「右」は droits 「法律」のことなのでしょう。「法律のその他の問題」を云いたいのだと思います。(La causette の方でカテゴリーに loi 「法」というのがあるのですが、loi は制定されたひとつひとつの法律のことですから、総合的な概念である droits に変えた方がいいと思います。少なくとも複数形にした方がいいです。) 二番目のは Les organisations nouvelles 「新しい機関」なのでしょう(よくわかりませんが)。三番目のはなぜアクサンがひっくり返っているのかがわからないけれども、intellectualle とか nouvalle とか、el が al になるのはこのひとの癖か何かなのでしょうか。
 コメント欄のところにある Conserver mes coordonnées? 「私のアドレスと氏名を保存しますか?」というのも変ですし。これはフランス語の問題というよりも論理の問題ですね。これでは「小倉さんがアドレスをくれるんか?」と思ってしまいます。フランスのサイトではこういう場合「私」も「あなた」も両方ありえますけど、「私」なら「私のアドレスと氏名を保存します」で疑問符はつかないでしょう。(「Coordonnées をください」と云ったときに、本当は住所や電話番号がほしかったのに、メイルのアドレスだけをもらうことはあるかもしれないけれども、こちらの方で住所も電話番号も聞かないでメイルアドレスだけを求めておいて、それを coordonnées と呼ぶということはあるのだろうか。よくわかりません。)
 Les notes récentes, les commentaires récents というのは、この場合は定冠詞をとった方がいいでしょう。フランス人は英単語の濫用を嫌いますから、trackback ではなくて rétrolien の方がいいでしょう。カテゴリーの nouvelles も、おそらく actualités の方がいいのではないかと思います。もしこれは actualités だけではないのだということなら、すぐに前言を翻すようで何だが、この場合は news の方が 「短篇小説」を意味しうる nouvelles よりはわかりがいいと思います。
 こういうフランス語のまちがいは、お菓子屋さんなら「かわいい」と思っておしまいだが(うそ、うそ)、このひとは味覚を楽しませることではなくて、ことばを職業としているのだから、もう少しことばを大切にしてほしいものです。こういうのは本人に直接云いに行った方がいいのかなあ、と思ったんだけど、やっぱり「あなたのブログをまったく書き換えなさい」というのは気がひけます。本人がうれしいのにわざわざ水を差すのもなあ。その辺はお菓子屋さんといっしょですよね。まちがってますよ、なんて直接は云わない。
 でもこのひと、フランス人がいかにひとのつづりのまちがいをばかにするかを知らないし、つづりのまちがいは教育のレベルの低さを露呈するものとみなされるということが全然わかってないんだろうな。これは日本人が漢字のまちがいをばかにするのの比ではないよ。こういうフランス好きの日本人って、しあわせだなあって思うんですよ。しあわせならいいんだよね、きっと。
 気になってしょうがないので書きました。ごめんです。もし本人が通りがかることがあったら、見なかったふりをして、少なくとも恥ずかしいつづりのまちがいは直しましょう。私も直っていても気づかないふりをしますから。

P.S. あの、そんなみなさん、読んでくれなくていいんですが…。徹くんみたいなひとのために云っておきますけど、これ、悪口じゃないですからね。愛ですよ、愛。くれぐれもこれを揚げ足とりの材料に使ったりはしないように。

前の記事 『水のなかのナイフ』と『袋小路』
次の記事 「津軽弁の日」に行ってきました

8 コメント:

あのにますかわーど さんのコメント...

フランス語は英語がわかる程度のド素人日本人には難しい言語ですね。

小倉秀夫 さんのコメント...

個々のフランス語については,nifty側で用意してあるものをそのまま使っています(といいますか,ココログの場合,どの言語を使うのかというオプションが選択できるにすぎません。)。

ssd さんのコメント...

ええと、それはね。

外人の謎の漢字のTシャツとかそれと同じなの。

NeiMuroya さんのコメント...

 みなさんコメントどうもありがとうございます。小倉さんには大変失礼いたしました。
 小倉さんのコメントにお答えします。そういうこともあるのだろうとは思っていましたが、それは私の問題の本質にはかかわりのないことです。「このような変なフランス語を使う(あるいは認めている)日本人は、フランスのことが好きと云いつつ、その実ばかにしている気がする」のがいちばん私の気になるところなのです。まじめな法律家の方なら、ぼんやりとフランスにあこがれるひとと同じような夢のフランス観で満足していてほしくない、という感想をもちます。この変なフランス語の選択はこういった曖昧なあこがれを示していると思うのです。私の勝手な感想ですが。

匿名 さんのコメント...

いきなり話が変わりますが・・・
こんな和製仏語?もあります。

http://homepage2.nifty.com/le-repas/bgtop.htm

和製仏語は、話題違いかな?
そもそも、「コムサデモード」というのも凄いと思いますが・・・。

NeiMuroya さんのコメント...

こんにちは。こういうおもしろいリンクは歓迎です。昨日友だちに教えてもらったのだけれども、こういうものもあります。http://npu4.free.fr/
これはフランス人が見つけた変な和風フランス語です。

banque de logiciels さんのコメント...

おやおや。これは面白いサイトですね。そして200以上の投稿が(笑)。さすがです。contribuerしてみようかな(笑)。
Blégråceを運営している会社はle repas(「ル・ルパ」ではなく、単に「ルパ」と書く。しかもルパは、パン屋とセルフサービスのコーヒーショップが合体したようなお店。どこがle repasなのかざっぱりわかりません)と言います。

NeiMuroya さんのコメント...

孫さん?!